トライアスリートへのロルフィングセッション Vol.2

トライアスロン バイク
photo : Triathlon : license

 
トライアスリートTさんの経過報告です。
スリーブの3セッションを終え、コアの4セッションに入っていきます。
各セッションの詳細はNさんの記事も参考にしていただければと思います。
 

セッション4:内転筋と軸

セッション3を終えた時点で感じられていたスイムの際の背骨の伸びとともに、脱力の感覚も掴み始めてきているということでした。
初回からの懸念材料の一つである右足首の硬さやランニング時の左右の接地の違いは、Tさんの場合、右脚の大腿部にポイントがあります。
特に右腸腰筋と右大腿四頭筋が連動しておらず、その負荷が右内転筋にかかっています。
そのためランニング時に慢性的に右内転筋に痛みがでる悪循環を形成しています。

セッション4では以下の3点をポイントにセッションを進めます。
1、内転筋と骨盤部の解剖学的位置関係
2、腸腰筋と横隔膜、腸腰筋と内転筋の筋膜の連鎖
3、軸の感覚の向上

腸腰筋へのアプローチはセッション5のメインテーマですが、内転筋との関わりもありセッション4の段階からアプローチを始めています。
腸腰筋をゴムの様に使う意識や、ランニング時などに腸腰筋から伸びる長い脚を意識すること(Brain Mapping)に取り組みました。
セッションの初めにあった脚の可動域の制限も、終了後にはしっかりと広がり、スムーズな動きを感じていただけました。
セッションの中で行った腸腰筋から伸びる長い脚のイメージが新鮮だったようで、「ランニング時の新しい動きの獲得につながりそうです」というフィードバックをいただきました。

 

セッション5:腸腰筋のジレンマ

前回のセッションからの感想です。

ランの際により少ない力でダイナミックに走る新しい感覚を掴めました。
ただスイムの際に、どうしてもきれいなストリームラインを作りづらいことが改善点ですね。

ストリームラインが作りづらい原因として、肩周辺や肩甲骨の問題の他に、腸腰筋の硬さの為に腕を上方に伸ばしにくくなっていることが多くあります。
セッション5では腸腰筋(腰と脚をつなぐ筋肉)と横隔膜を中心に脚と上半身をつなげることを大きな目的として行います。
Tさんの場合、骨盤の動きを利用したAMPを腸腰筋に行っていた際に、腹直筋(お腹の表面の筋肉)を使いすぎる傾向が見られました。
これは力み癖の最たるものの一つにあたります。
腹直筋は腸腰筋(大腰筋)の拮抗筋※であり、過度な腹直筋の緊張は、腸腰筋の効率的な使用?の制限になってしまいます。
体感を安定させるためにコアを鍛えたり、スタビライゼーション(体幹トレーニング)を熱心に行っている方に多く見られる傾向なのですが、動きに際して体幹を腹直筋で固めすぎてしまい、腸腰筋が上手く使えていない というジレンマに陥っている方が多く見受けられます。
できるだけ腹直筋を緊張させずに内側の腸腰筋部を効果的に使えるように、AMPを用いたアプローチを進めました。
上半身と下半身の連動性を高めるように、同時に軸を意識した動きも取り入れながら行いました。
セッション6の一週間後にはオリンピックディスタンスでのレースの出場が決まっているとのことです。
ロルフィングを始めてから特にランでの動きの改善が見られ調子が良いとのことなので、レースが楽しみです。

※拮抗筋:一方の筋肉が収縮すると、もう一方の筋肉は反射的に弛緩するという関わりをもった筋肉同士の組み合わせ。その組み合わせの中で、主に弛緩する方の筋肉を指す。
http://www.bbc.co.uk/bitesize/ks3/science/organisms_behaviour_health/life_processes/revision/8/
(主動筋と拮抗筋を確認できるおもしろいページがありました。矢印を動かしてみてください)

 

セッション6:パターンとしての癒着、動きの中での癒着

セッション5から少し日数が経ち、その間にTさんはオリンピックディスタンスとハーフのレースに出場されていました。
二つとも見事に完走され納得のいくレースができたとのことですが、バイクの内容に改善点が見つかったようです。
バイクセクションでは少しエキサイトしてしまい、これまで随分改善されてきた力み癖が顔を出し、ペダリングでついつい力み過ぎてしまったとのことでした。
力み始めると途端に右臀部と右の腸腰筋部の筋緊張が高まり、そこで蓄積した筋疲労がランの時に重くのしかかってきたそうです。

実際にセッションを始めていくと、安静時には顕著な癒着は見られませんでした。
しかし、動きを伴いながらAMPを行っていくと、動きのスイッチが入った瞬間に肋骨−骨盤−腸腰筋の癒着が顕在化します。
脳が動きの指令を出した瞬間に、いつもの使い方の癖というスイッチが入り、安静時には見られなかった動きの中での癒着が如実に現れます。

スイム、バイク、ラン。力みからは、十分に前へ進む為の推進力は得られません。
安静時に筋膜の癒着がみられなかったとしても、力みというスイッチが入ると、途端に使い方の中での癒着(癖)が顔を出します。
力みはエネルギーの無駄使いにもなり、すぐに筋疲労が訪れてしまいます。
このパターンは体を固めて使う傾向にある人に多く見られます。
体幹を固めるトレーニングによって動きの安定性を高めることはできるのですが、固めるだけでは限りあるエネルギーの効率利用にはなりえません。
体幹の安定性と全身の連動によるしなやかさの両立により初めて、動きにダイナミズムが生まれます。
ダイナミズムは身体に掛かる反力を前への推進力へと効率良く変換していくことができます。
スタビライゼーションの目的は、体幹の安定であって、体幹の固定ではありません。
ぶれないコアを養うためのものが、ついつい力み癖を助長してしまっています。
Tさんの場合は、体幹の安定性としなやかさを両立させ全身を連動させていく意識付けが何よりも必要になります。

 

セッション7:大切なものは目に見えない

セッションを始めるにあたり、前回までの身体の変化を伺いました。
姿勢が悪くなった時や不適切ではない身体の使い方をした時に、心地よくないという感覚としての気づきが生まれ、姿勢や使い方を修正できることが多くなってきたということでした。
セッション7では、首の筋膜、顔や頭の骨のバランス に対してのアプローチを行い、特に口の中や鼻の中からのアプローチが特徴的なセッションになります。
Tさんの場合は噛み締め癖もあり、この癖も力みを誘発してしまう一旦になっています。
実際に施術を進めていくと、上顎骨のバランスの悪さと、舌に過剰な力を入れ易いことが見られました。
舌の緊張は、喉の緊張や声帯の緊張を招きます。
そして、舌・喉・声帯の緊張は首の緊張や噛み締めへとつながり、その過緊張が全身へと波及していきます。
脱力を促すような首の使い方を取り入れてみても、まだ力み癖が取りきれなかったのは、舌・喉・声帯の緊張があるからでした。
鼻へのアプローチの際に、舌・喉・声帯を緩ませるようにワークを行い、舌の脱力・喉の脱力・声帯の開きを感じてもらうと、身体の緊張度合いがガラッと緩んできます。
セッション後に、「これまでは気づかなかった見えない部分の使い方が、全身との連鎖によりこれほどまで繋がっているとは思ってもみませんでした。『力より動き』に焦点を当てることが大切だということに気づき、考え方の根本が変わった気がします。」という感想をいただきました。
セッションで行った体の使い方、注意点、体感覚をワンフレーズの短い言葉(今回の場合は、力より動き)に集約できることは、動きの再学習を進めていく際のとてもよいアンカーとなります。
日常生活でこれまでの癖が出てきたとしても、ワンフレーズの短い言葉が感覚のトリガーとして働き、セッションで行った動きを再現し定着させるためのアンカーとなりえるからです。
体験を通して自分自身の内側から得られた言葉と腑に落ちたという感覚が新しく結びつくことを、コツを掴むと言えるのかもしれません。

 

コアのセッションを終えて

Tさんの場合は長年の力み癖があるので、練習やレースの際は70%の力で動くという心がけで充分効果的な力の出力ができてしまうでしょう。
70%という力の配分はエネルギーの効率利用につながり、冷めた頭でレースに集中し続けることもできるはずです。
コアの4セッションを終えて、力み癖の根本原因である舌・喉・声帯周りへのアプローチが完了しました。
残りの3セッションでは、これまでの7セッションで行ってきたポイントを繋ぎ合わせます。
例えるなら、チューニングを行った楽器(1〜7セッション)を持ち寄り、オーケストラの楽団として一つの音楽を奏でるための調和を求めていくことになります。
Tさんにとっては、脱力を動きの中に落とし込んでいくことが、動きの安定性としなやかさの調和につながります。