ロルフィングセッション10:結び、新たな始まり −腸腰筋と頚長筋−

start finish

Nさんのセッション10を行いましたので、経過をご報告したいと思います。

前回の来院から半年が経過していました。

体の調子もとても良く、前回行った足趾の感覚を意識しながら歩くと胸の開きを自然と感じることができ、気分も明るくいられるということでした。

心身のつながりをしっかりと感じておられ、日本語に体を使った慣用句がたくさんあることにも納得する、とおっしゃっていました。

ただ、昔の癖がまだまだ抜け切らないため、気付くと以前のパターンで動いていることがあるのも事実です、と伝えてくださいました。

実際にNさんの体を拝見していくと、フィードバックをいただいたような、足趾の機能性と上半身の伸びやかさのつながりを、客観的にも見て取れました。

構造の観点から見たX脚はまだ残っており、締めの10セッションにおいてさらにアプローチし、どこまで変わるかが楽しみでした。

 

お腹と頚 <腸腰筋と頚長筋・頭長筋>

psoas and longs colli
3D4Medical社様のご厚意により、画像を使用させていただいております。
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ロルフィングのセッションにおいては、特に立ち姿を重視して、姿勢と重力とのバランスを捉えています。

人間のラインを横から見た時に、大きく前湾と後湾のグループに分けることができます。

乳児の時の生まれたままの姿勢、すなわち体を丸めるような後弯は人間にとって安心安全な姿勢と言われています。

対して膝・腰・頚は前弯を形成している特徴を持つグルーピングとしてまとめられます。

幼児期においての成長過程の中で、「首がすわる」「ハイハイする」「立歩きする」という社会性を獲得していくために、前弯が各部に構成されていきます。

社会性の獲得のための前弯形成であるため、膝・腰・頚の各部は特に、その人の性格や資質、コミュニケーションの傾向や対人関係が姿勢のパターンとして現れやすいと言われています。

セッション10開始にあたり、Nさんの立ち姿をチェックします。

アプローチを行いたい部分は3つに集約されました。

それは、前湾のグループである膝と腰と頚に当たり、構造的にも機能的にも密接なつながりを持つ各部3箇所の中でも、さらに少し強く湾曲が出ている腰椎にまずは注目しました。

腰と頚との関係性は、姿勢や動きを考える上で特に重要な対になります。

腰にある腸腰筋、頚では頚長筋・頭長筋が、先日紹介したインナーフォームをさらに応用していくポイントに当たります。

そこで、Nさんには膝を立てた仰向けの体勢を取っていただき、腹部と頚の協調性を高めるワークを行いました。

しかしNさんの場合には、これはしっくりきませんでした。

こういう時は、同じ場所に拘って続けるよりも、フォーカスのポイントを変えた方が上手くいくことが多々あります。

 

土踏まず、落ちていませんか?  <第2楔状骨の引き上げ>

intermediate cuneiform bone
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目的は同じなのですが、異なる角度からのアプローチを試みるべく、「下肢から上肢への連鎖へ」と視点を移しました。

セッション9に引き続き、足趾や足裏へのアプローチを更に深めていき、X脚と過伸展のある膝へ繋げていきます。

前回は短母趾屈筋や母趾内転筋を活性化することにより、親指の機能性を高めるアプローチを中心に行いました。

その発展編として、今回は足の第2楔状骨の引き上げを体感していただきました。

やり方としては、膝の屈伸に伴い、足首の曲げ伸ばしを行いながら、足底アーチを保つように第2楔状骨の高い位置をキープし続けます。

上手くできると、足趾や足裏、脛骨や腓骨周辺の筋肉に、適切なテンションを感じることができます。

第2楔状骨を活性化させることにより下肢に加わる適切なテンションは、下肢から上肢への筋膜連鎖を高めるスイッチの一つになります。

この辺りは慣れないと感じづらいポイントではありますが、前回足趾を活性化させる感覚を既に掴んでいるNさんにとっては、第2楔状骨の引き上げ感も難なく自分のものにされていました。

第2楔状骨を意識できるとお腹にも力が入りやすい気がします、とのフィードバックから、下肢と腹部のコアユニットを上手く使えていることが分かりました。

膝の過伸展がある人の特徴

standing as bends and rotations
photo : bends and rotations : license

第2楔状骨の引き上げを行った後、X脚と過伸展のある膝へのアプローチを行いました。

膝の過伸展がある人の傾向には、無意識に大腿四頭筋に過剰な緊張を持続させているという特徴があります。

大腿四頭筋の過緊張へのアプローチの一つに、膝のお皿−膝蓋骨へのアプローチを行うというものがあります。

まずは座位にて、本来ある膝蓋骨と大腿骨の空間を実際にNさん自身にも触っていただき、筋肉の過緊張や脱力時の可動性を実感していただきます。

そして次に、膝蓋骨と大腿骨の間の空間を意識し、立位姿勢においてもスペース感覚を感じ続けていただきます。

膝の過伸展がある人において行う立位での膝蓋骨のワークは、ほぼ全員の方から「膝が曲がっている感じがする。」とのフィードバックがあります。

慣れ親しんだこれまでの膝の使い方から、膝の過緊張を解いたポジションで重心を捉えて立つことによる、一時的な感覚の違和感が生じるからです。

Nさんも初めは、膝が曲がっている感覚があったのですが、先ほどの第2楔状骨の引き上げも同時に意識できるようになると、非常に安定した下肢から上肢へのラインのつながりを体感できたようでした。

この感覚を味わっていると、セッションの初めに試みた腰と頚のバランスも見事に調和したポジションへと移っていきました。

Nさんとのセッション10はマクロの視点として膝と腰と頚の関係性を主題にし、ミクロの視点として膝のX脚と過伸展の改善を主眼にしました。

セッションを終えた時の、本当にすっきりとした立ち姿がとても印象的でした。

 

まとめ

walking to the mountain
photo : walking to the mountain : license

身体の連鎖は本当に不思議なもので、アプローチの角度により、筋膜の反応性は全く異なります。

異なる場所からのアプローチを用いながらも、目的とする望ましい結果が導かれるのも、しなやかさを取り戻した証と言えるでしょう。

Nさんの場合は、これまで10セッションの中で行ってきたアプローチを、日常でも行える「感覚のコツ」というエッセンスとして、シンプルな幾つかのワークに凝縮してお伝えしました。

思い出した時に行っていただくことで、体が心地よい重心位置に戻っていくキューをお渡しできたかと思います。

X脚などを施術台の上だけで矯正するというのは、一つの方法でしかありません。

ロルフィングとは「動きや感覚という機能面と、姿や形などの構造面は一如である」として捉えています。

日常の中での動きの心地よさや気分の晴れやかさをより良く感じていただけるような、快適な身体の使い方を再学習していただくことを目的としてセッションを進めていきます。

その快適な身体の使い方の継続を行なっていくことで、重力がもたらす作用により、自然とナチュラルなラインに還っていくことが、ロルフィングの本質の一つだと考えています。

 

セッションの終わりに 咳とストラクチャーの関係性

tea in Istanbul

セッション9から半年間の間に、Nさんは体調を崩したことがあり、喉の違和感と慢性的な咳に悩まされていたそうです。

この慢性的な咳は、体調を崩す際にはいつも決まって出るメインの症状だということでした。

セッション10の最初、頚へのアプローチを試みている際に触れた乳様突起や胸鎖乳突筋のあるポイントに、悩んでいた咳が誘発するような箇所があった、とのことでした。

この事をストラクチャーの観点より考察すると、足や膝などの下肢の機能不全と腰部の動きの悪さの負担を、頚部が一心に請け負っていることだと考えられました。

これも膝と腰と頚の3箇所の関係性に集約されます。

頚部への慢性的な負担の蓄積は、胸鎖乳突部の循環不全を引き起こし、それが頚部の微小循環系から星状神経節や胸部交感神経幹への悪影響を及ぼし、結果として慢性の咳症状として露呈しているのだと推測されました。

ツボではエイ風。

ある流派では免疫系統や付随する慢性炎症の改善の必須穴として重用されているポイントです。

ロルフィングのストラクチャーから見える、鍼灸のツボと症状の対比が鮮明に現れている興味深い状態でした。

これまでの癖や動き方のパターンを改善することにより、慢性症状の改善も見込めることをお伝えしました。