重力に関して -腰痛の治療から考える-

骸骨とパソコン
photo : Anatomy of a Blogger : license

誰もが肌身離さずパソコンやスマートホンを持ち歩く時代が到来し、それらデバイスに接する時間が以前に比べ格段に長くなってきました。
電車に乗っていると8割以上の人がスマートフォンの画面を眺めている風景も日常のこととなりました。

パソコン作業をしている人、スマートフォンを使っている人の身体のポジションに注目してみると、多くの人は頚(首)が前に出ており、肩が丸く内に入っていることに気付きます。

知らないうちに定着してしまっている日常生活での姿勢。
実は「重力」が大きく関係していることがわかっています。

 

姿勢制御システム

人間は、完全に静止して座ったり、立ったりしている訳ではありません。
意識されてはいませんが、わずかな揺らぎを絶妙に調節しながら姿勢を維持しているのです。
その絶妙な姿勢の維持のために、重力の下で自動的に働いている3つの仕組みがあります。

1.入力(感覚)
『視覚』『平衡感覚』『 筋・腱・靭帯などからの深部感覚』
これら3つの感覚をそれぞれ脳に送ります。

2.調節
脳の中でも特に小脳と言われる部分で、1で得た感覚の情報を統合します。

3.出力(筋活動)
小脳で統合された情報を元に、抗重力筋※と言われる姿勢を維持する筋肉の調節をします。

※抗重力筋とは、重力が加わったときに主に身体を支える筋肉であり、姿勢の形成に関与しています。
頚部伸筋群(首の後ろの筋肉群)、脊柱起立筋(背骨の脇を縦に走る筋肉)、ハムストリングス(太ももの裏の筋肉)、下腿三頭筋群(ふくらはぎの筋肉)に代表されます。

これら3つの仕組みが協調して働くことによって、重力の下で安定した座位・立位姿勢を保つことができます。
姿勢を維持するために余分な努力をする必要がないのは、この一連の姿勢制御システムが自動化されているためです。
これは大変便利な仕組みである反面、あまりにも自動化されてしまっているが故に、無意識のうちに日常生活での不良姿勢や癖をも定着させてしまうことにつながるのです。

 

姿勢制御システムの応用

この自動化された姿勢の仕組みは、施術時にも応用することができます。
寝た状態での施術では取れた様に見えた炎症や痛みが、座位や立位になってみると症状があまり改善していないことがあります。
これは姿勢を維持するための自動化されたシステムが、重力の刺激を受けると、不良姿勢や癖のパターンを出現させ、同時に筋肉・腱・靭帯に深く結びついた痛みのパターンを再燃させてしまうからです。
施術を行う際には、まず患部をできるだけリラックスさせる寝た状態でしっかりと炎症や痛みを取り、その後に座位や立位時に活性化するシステムに対しての働きかけが必要になってくるのです。

 

腰痛治療の実例

これらを踏まえ、鍼灸治療を例に男性のデスクワーク過多による腰痛治療の実例を紹介します。

-ロルフィングの観点より-
長時間の座位姿勢によるハムストリングスの短縮があり、それが筋膜連鎖により下腿三頭筋の緊張も誘発していました。
また、ほぼパソコンを使った仕事であるので、頚部伸筋群の慢性的な緊張も同時にありました。
ハムストリングス・下腿三頭筋・頚部伸筋群の慢性的な緊張が、他の抗重力筋である脊柱起立筋にも波及し、蓄積された筋緊張が腰痛をもたらしていました。

-東洋医学の観点より-
腎虚を呈しており、男性であるが顕著な下肢のむくみがみられました。

一連の施術を終え、一度座っていただき腰の状態を確認してもらうと、痛みは1/3に減少していました。
デスクワークの座位姿勢が症状の発生に深く関わってきているのは明白なので、座った状態で腰部の抗重力筋に対しての刺鍼を4箇所行いました。瞬時に腰の鈍痛はほぼ0になりました。

これは、寝た状態での治療に加え、座位・立位での重力下での治療による姿勢制御システムの改善が大変重要であると言えます。
パソコンを使った座位姿勢が働き方の中心になっている昨今、繰り返す慢性症状の更なる改善には、重力下での筋活動のパターンに着目した施術をする必要性が高まってきていると感じています。